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有限なグランドやレドームやメタルフレームなどを含む現実的なパッチアンテナ構造の解析例

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パッチアンテナを実装する場合の現実的な構造について解析してみました.最初に解析結果の一例を示し、実装上注意すべき項目の概要を解説します.そしてそれらの影響を正しく解析するために必要なsonnet製品のグレードを紹介します.

2006/4/11
2009/1/7修正
石飛

解析結果

下表に、アンテナ保護レドームカバー、有限な大きさのグランド板、金属スペーサーの影響を解析したモデルと結果の一例をまとめます.表中で、

モデル外観 解説
モデルファイル
解析に必要なメモリ
周波数
利得
最も基本的なパッチアンテナのモデルです.1.6tのFR4基板に2.45GHzの直線偏波パッチアンテナを構成しています.グランド板は非常に大きく、 放射パターンはほぼ理論通りの結果になります. 但し、給電点が非対称なので微かに放射パターンに歪みが現れます.
patch.zon
5MB
2.46GHz
2.11dB
グランド板を有限な大きさ(46mm四方)にするとともに、エレメント上5mmの高さに厚さ5mmの樹脂のカバーを配置しています.明らかにパッチアンテナの理論的な放射パターンと異なり、利得は大きく変化します.
patch46.zon
11MB
2.46GHz
3.05dB
グランド板をやや大きく(λ/2=61mm四方)してみました.利得はほとんど影響を受けませんが、放射パターンを見ると後方への不要放射が改善されています.
patchp61.zon
15MB
2.465GHz
3.05dB
有限なグランド板とカバーに加え、カバーを機械的に支えることを想定して、アンテナエレメントの周囲を、5mm角の真鍮の角棒で囲みました. 角棒はアンテナの動作に影響を与えないよう、アンテナエレメントから4mm離して配置しています.そのため周波数への影響は小さく収まっていますが、 アンテナの利得は明らかに低下しています.
patchp1.zon
67MB
2.475GHz
1.93dB
角棒を、基板のグランド板とm2.5ネジで固定した場合です. 角棒が設置されているかどうかは、少なくともこのモデルではほとんどアンテナに影響しませんでした.(すべての場合に影響しないとは言えません).ネジの間隔は約λ/4です.
patchp2.zon
230MB
このモデルをV12で解析するとメモリ使用量は約半分の322MBになり解析時間は1/10(quad core)になりました.
2.475GHz
1.75dB

パッチアンテナ実装上の注意

アンテナの実装には次のような点に配慮しなくてはなりません. 実装条件やコストに余裕があれば、理論的考察だけで安全な設計マージンを確保できますが、 ぎりぎりの条件やスペースで製品設計をせざるを得ない場合、それらの影響をシミュレータで把握しておかねばなりません.

グランド板の大きさ
パッチアンテナについての理論的な考察は、無限大のグランド板の条件下で行われています.そしてsonnetのモデルでは2.5λ程度のグランド板で、理論値に極めて近い結果が得られます. 実験では、パッチアンテナエレメントの端部からグランド板の端部までλ/4、つまり3λ/4四方のグランド板が確保できれば理想的ですが、 実装上は許されないでしょう.グランド板の大きさによる特性の変化はシミュレータに頼って確認しなくてはなりません.
レドームカバーの距離
アンテナを外部環境から保護するために、樹脂製のレドームやカバーでアンテナを覆うことがあります. カバーがアンテナの近傍界にまで近づくと、アンテナの共振周波数や、整合条件に影響を及ぼします. 一般的なλ/2のアンテナでは近傍界と遠方界の境界はλ/2πです.上記の例ではλ=122mmに対して、レドームの高さは5mmなのでレドームの影響を シミュレーションで確認しておく必要があります.
レドームカバーの厚さ
レドームカバーが近傍界にあるとき、厚さは薄いほどアンテナに及ぼす影響が少ないことは明らかです. 一方レドームカバーが遠方界にあるとき、厚さが 0,λ/2, λ, 3λ/2...の時電波の放射への影響が極小になります.sonnetのモデルで誘電体層を配置すればその影響を解析することができます.
エレメント近傍の物体
金属にせよ、誘電体にせよ、磁性体にせよ、アンテナ近傍界にある物体はアンテナの共振周波数や、整合条件に影響を及ぼします. パッチアンテナの場合、パッチエレメントと地板の距離(基板厚)の少なくとも2倍離して物体を配置すれば、その影響は許容できる程度に収まります. 上の例では、アンテナエレメントから4mm離して5mm角の真鍮の角棒を配置しています.アンテナの周波数が微かに変化していることがわかります. 周波数の変化だけでなく、利得や放射効率の低下にも注意が必要です.
金属物体
金属物体は、たとえアンテナ近傍界の外にあっても、アンテナから放射されたエネルギーを受けて、それを再放射し放射パターンを乱します. また、金属物体の共振周波数では、アンテナから放射された微かな雑音や寄生放射に共振して大きな不要放射を引き起こす恐れがあります. この現象を防ぐため金属物体はグランド板と(少なくとも)λ/4間隔で接続しなくてはなりません.(上述の例 patchp2.zon)

解析モデルの注意

解析空間
sonnetでアンテナを解析する場合、アンテナの放射方向にλ/4、周囲にλの余裕を持たせてboxと層構造を設定し、アンテナ放射方向の境界条件は"free space"に指定します.
理想的なモデル
直線偏波なら SonnetLiteで解析できます. 円偏波の場合SonnetLitePlusが欲しくなります.
有限なグランド板のモデル
グランド板の影響だけを見られるように、セルサイズを大きめにすれば SonnetLiteでも解析できなくもありません.
放射特性
アンテナの利得、放射効率、左右の円偏波の成分や放射方向などを解析するには Sonnet Level2 Basic Anntena 以上が必要です.
レドームカバーの影響
レドームカバーは、(たとえカバーの表面に導体が無くても)導体層を2層分使用します.レドームの影響だけを見られるように層構造を工夫すれば Sonnet Level3 Gold Anntenaで解析できます.
金属物体の影響
厚みの金属物体はThickmetalモデルを使ってモデル化します.セルサイズを大胆に大きくすればSonnet Level2 Basic Antenna でも解析できますが、 Thickmetalはメモリ消費が大きいので Sonnet Level2 Silver Antenna 以上をお勧めします.
複数の要素
有限なグランドとレドームカバーの影響など複数の影響を同時に解析するには Sonnet Professional に patvu optionを推奨します.