概要
sonnetを使って"波長に対して無視できない厚さの基板に形成したアンテナ"を解析した場合に、単体のアンテナでは現れるはずのない多数の寄生共振があらわれることがある.その原因と対策を解説する.
アンテナ解析のガイドライン
sonnetを使ってアンテナを解析する場合、次のガイドラインに従うべきである.
- topとbottomはfreespace
- topとbottomまでの距離は約1/4波長
- 側壁までの距離は約1波長
- 水平方向への放射は不正確
アンテナ解析モデルを作る場合に注意すべきことをまとめてあります. |
代表的な例
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dipole1.zon 2.45GHzのダイポールアンテナです.放射パターンは理論通りで何の問題もない.
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dipole2.zon 2.45GHzのダイポールアンテナを1.6tのFR4基板で作った場合、 水平方向への放射が、一般的なダイポールアンテナのパターンと異なる.
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dipole3.zon 2.45GHzのダイポールアンテナを15.3mmのFR4基板で作った場合. S11の周波数特性は全く奇妙で、アンテナ単体では起こりえない多数のリップルが見られる.
対策
アンテナエレメントから誘電体基板を介してbottomなり topまでの電気的な距離がおよそ1/4波長になる程度に bottomなりtopなりを近づけると解決することがある. もし、基板の厚さが1/4波長以上あって、bottomなりtopなりをどんなに近づけても、その条件を満たせないなら、アンテナそのものの構造設計を考え直すべきである.
実例
dipole4.zonでは15.3mmのFR4基板の下にbottomをぴったり密着させている.S11の周波数特性は見慣れた形になった.放射パターンは誘電体の影響で誘電体基板のある下側に強く放射している.
原因
box共振モードとABS
アンテナの解析では、解析空間の大きさが2波長以上になるので、必ずbox共振モードが現れる.そして一般にはbox共振モードを含む周波数領域ではABSスイープは効果的に働かない. しかし アンテナ解析では、 topかbottomがfreespaceに指定されているがために、 box共振が存在しても、 その共振Qが低く解析結果にはbox共振が現れず、 従ってABSを使った高速な周波数解析が利用される.
ところが何かの原因でbox共振モードがtopやbottomのfreespace境界条件で減衰されないと、上述の前提が崩れてしまう.
特にTEモード
topとbottomの間隔、つまり解析領域の高さが1/2波長以上になるとTEmn1モードが現れる.しかしそれ自体は問題ではない.そこで電界の分布を考えてみる.
dipole1.zon | dipole3.zon |
2.549GHz | 1.323GHz |
誘電体基板なし | 誘電体基板 厚さ約1/4波長 |
誘電体基板が無い場合には、 TEmn1モードの電界エネルギー のZ方向に沿った分布は、topからbottomまでの間に山形に分布する.しかし 誘電体基板が電気的に厚い場合は、TEmn1モードの電界が誘電体基板の内側に集中し、 その共振エネルギーの多くがtopやbottomのfreespaceから離れてしまうので、 topやbottomで共振エネルギーは殆ど減衰しない.
そこでtopなりbottomなりを、誘電体基板から1/4波長の位置でなく、アンテナエレメントから誘電体基板の電気的厚さを含めて1/4波長の位置に設定すれば、TEmn1共振モードを減衰させることができる.
周波数によってはこの共振モードを積極的に利用して 高性能の共振器を実現されている.
もし、検討中のアンテナの誘電体基板そのものの電気的厚さが1/4波長を超えている場合、 それが”ほんとうにアンテナなのか?”それとも”誘電体スラブ共振器に結合電極をつけたものなのか?”を、実際に作って悩む前に再検討する必要がある.
2005年6月18日